ちくま文庫『ギリシア悲劇Ⅰ アイスキュロス』

ちくま文庫『ギリシア悲劇Ⅰ
アイスキュロス
偉い人である。

三大ギリシア悲劇詩人の中では一番ハンサムで、
背が高く、貴族であり、
作品の高邁さでも異質な輝きを持っている。
ペルシア戦争参加でヘロドトスの『歴史』にも登場している。
(その時、兄が目前だったかで戦死した)

有名なアイスキュロス像で、丸禿のヒゲの長い顔として紹介されているが、
このイメージでとらえてはいけない。
イタリアの美術館に全身像のアイスキュロスの彫刻があって、
イメージは肩幅といい、まっすぐ見据えた視線といい、全き「完全人」
という感じで本当の貴族というものを感じさせる。

(某図書館にあったのを発見して驚いたものだが、
18年後のその図書館にいったら、見あたらなかった。見つかり次第アップします)

親の遺産でボンクラな生活を送る、
そのような現代の貴族とは隔絶している極みの男。

残っている作品は

1 縛られたプロメテウス
2 ペルシア人
3 オレステイア3部作  アガメムノン
4 オレステイア3部作  供養する女たち
5 オレステイア3部作  慈しみの女神たち
6 テーバイ攻めの七将
7 救いを求める女たち

の7作品で、
古代において通常上演される3部作が
セットになって残っているのは、このアイスキュロスだけである。

エッセンス的に知りたいのなら1と3~5を読むとよいのでは。

****************************
以下、好みに任せた、美味しいところ録りの悲劇紹介をいたします。
(学術的な評価、歴史的背景、文学的価値とかムズカシ~イお話は
大学の先生や、その道のご専門のHPにあたってください)

『縛られたプロメテウス』は現代に伝わる、残っているギリシア悲劇
全作品中でもかなり異質な作品である。
人間と神様が混ざってか、人間のみが演じられるのだが、これだけは
ほとんどオール神様キャストなのである。
だから、相当な大昔という時代設定で昔もむかし、ゼウスがその父クロノス
の覇権を倒してそれほどたっていない時期という設定。
そして、全権を握る新規の覇者ゼウスの諸悪を、巌(いわお)に磔られた
プロメテウスが告発するのである。

かつては、クロノスを倒すのに決定的な助力を与えたのにもかかわらず、
人間に様々な技術を与えたという理由で磔られたわけであるが、
これに3者が順に訪れて問答を交わす。

世界をめぐる大河・大洋の主オケアノス (プロメテウスの戦友)
ゼウスの好色の対象 人間の娘イオ (非道の目にあわされる同じ立場)
ゼウスの息子神 ヘルメス (伝令役)
の三者。

圧巻というか全体が緊張の連続なのだが、
イオが登場するくだりは素晴らしい。
イナコス王の娘。ゼウスの愛を受け、そのためゼウスの妃ヘラの嫉妬
から逃れるようとゼウスが彼女を牝牛に変じた。
ヘラは牝牛を追い立てるのに千の目を持つ化け物アルゴスを使わす、
アルゴスはヘルメスにより滅ぼされる。
神話の解説書などではここで一端話は終わるが、アイスキュロスは、
アルゴスは死んでもなお亡霊となり、追い立てる筋立てとした。
美貌のうら若き女性が牝牛の2本の立派な角をはやされ、虻につつかれ、
化け物の亡霊に追い回される。
それもまた、新規の独裁者、神々の神たるゼウスの仕業というわけである。

最後近くのプロメテウスのセリフ
「だから、私に向かって投げつけさせろよ、両刃の焔の稲妻なりを。
また高空を雷鳴の轟きや、荒れ狂う嵐の痙攣で掻き乱すがいい。
して大地を根底から、根ぐるみ強風にゆるがせ立てろ、
また、海原の波は逆巻く怒濤と吹き上げさせ、
天上の星の通い路を洗わせたがいい。
して暗黒のタルタロスへと真逆さまに私の五体を、投げ下ろさせろ、
必然の仮借を知らぬ渦のさなかに。
しかもなお私を、死なせることはできなかろう」
(呉 茂一 先生 訳)

あなたも、私も、アイスキュロスも、ホームレスも、
アメリカ合衆国大統領も、『必然の仮借を知らぬ渦』の中に
投げ下ろされているわけですね。

****************************

「ペルシア人」
紀元前472年上演、サラミス海戦から8年後。
大戦争のペルシア戦争勝利からさめやらぬ状況のアテーナイ市民に、
ペルシア帝国王宮内の狼狽ぶりをこれでもかとさらけ出す内容。いか
にギリシア側アテーナイ側が、策謀、知恵、勇気をふるったのかを、
当時、市井でいやというほど語られたであろう。
それを逆の手で、表現し、持ち上げることを作者はやった。
敵の狼狽ぶりを第3者として鑑賞する地位に市民をつけさせるという作
劇上、政治手腕上のテクニック。ニクいね~。

登場人物:
若きクセルクセス王
先王ダレイオスの亡霊
ダレイオスの后にしてクセルクセスの母のアトッサ
ペルシア人の長老たちよりなる合唱隊コロス
伝令

アトッサがダレイオスの霊を呼ぶ時のアイテム
・お供え水
・けがれなき牝牛の白い甘い乳
・花のしずくを集めたるすき輝ける蜂の密
・乙女の泉の水の滴り
・野辺の母なるぶどうの古木のまじりなき琥珀の露
・時を分かたず繁る葉にいのち花咲くきみどりの、
オリーブの木からの香しき実
・万物の母の大地の子なる花冠
これらを供えて大地に飲んで頂いて、地下の神々様に送りとどけるという。
そして、招魂の御聖歌を唱えると「先王の霊」が、果たして、現れた!

ところで、貴方は霊なるものを見たことがありますか?
私は一度だけあります。

**************************
「オレステイア 三部作」

私の手に負えないところの壮大さ。
だから、断片的にしか、扱えない。
つまるところ、「親子って何?」
親が子を殺す、その復讐に妻が夫を殺す、その復讐に子が母を殺す。
ギリシア古代最大の王家の不幸。
それは、神の仕業ではない。
個々の人間の、己の妄執にとらわれた結果。
救いをもたらすは、裁判による調停(調定)。
裁判官の代表は戦争の女神。
偉大な性格の人物たちは鎮魂の霊と化して、民族から手厚く敬われる。

印象に残っているところ、

「アガメムノン」
・冒頭部の物見(ものみ)の男の独白
=素晴らしく効果的であり、アイスキュロスっぽさが
よく現れている。(長い台詞が兎に角私は好き。)

・コロス
「悩みによって学ぶことこそ、
 この世の掟と定め給うて
 人間を思い慮りに導いた御神なれば。
 されば眠りに代えて心の前に、疼く痛みを
 忘れもやらぬ 悩みこそ、血をしたたらせ、
 望まぬとてもおのずから、慮りをもたらすもの。
 たぶんは尊い舵をお取りの神の、
 力ずくでの情けであろうか」(呉 茂一 氏訳。以下同様)

・クリュタイメストラ
「倒れた者をなおさら蹴りつけようというのは、
 人の生まれつきでございますから」

「海がある・・・その海を誰が干しつくせよう・・・その奥にはいっぱい、
 あの黄金にも等しく尊い紫貝を養い貯めている、ぞくぞくと噴き出す
 真紅の液の、あの着る衣を染めなす色」

・カサンドラとコロスの掛け合い1071~1330
カサンドラ「おとととい、ぽぽい、だあ。おお、アポロン、おお、アポロン」
コロスの長「なぜそう悲しげに呼びかけるのか、ロクシアス神に対して。
       死者を悼む嘆きの歌で迎えられるに、その御神はふさわぬだろうが」

・・・・・・どうも、美女をいためつけるシナリオはアイスキュロスさんが一番のようだ。

その美女も<儚げ、無垢、純粋、運命への殉死>のイメージをかぶせられて。
あぶねー、あぶねー。神懸かりともいうべき放心状態で、痛切な見通しを告白
させられる女たち。


テーマ : 書評
ジャンル : 小説・文学

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